当ブログNo.119~No.121にて「人間生活と技術(6)住まいと電気自動車の融合を実践する(その1, 2,3)」と題して、電気自動車と住まいに関わる省エネ、創エネ技術の融合システムによる個々の住宅の範囲でのエネルギーの有効利用と地球環境負荷低減化の両立可能性について、鎌倉市にある自宅(Photo 1※)での導入実績を踏まえた議論を行ってきました。 [※イソダ工務店撮影]
Fig.1は自宅で導入した、“太陽光発電(PV & PVPC)と電気自動車(EV)をV2H(vehicle tohome)の機能を有するEVパワーステーション(EVPS)によって融合させたシステム”(以下、融合システムとの略記も)の要素構成と要素間の電力エネルギーのフローを示した図で、以前のブログ掲載図を若干改訂しています。前出のブログ記事での融合システムの導入にともなう各種実績データは、同図の実線の矢印で示された電力エネルギーに関わるもので、同システム導入に伴う移行期を含んだ2019年4月から2020年3月までの1年間を対象にマイホームにおけるエネルギー利用とそれに伴う経費の状況をとらえたものでした。この間、電気自動車(EV)の導入は既になされていたものの、外部の充電スタンドへの依存から自宅充電への切り替えおよびV2H機能の付与は、太陽光発電(PV & PVPC)の2019年8月7日の設置、EVパワーステーション(EVPS)の2019年9月18日の導入によって、はじめて行うことができたのです。
したがって、本ブログでは2019年10月から2020年9月までの1年間に焦点を当て、太陽光発電量の年間変動、四季を経ての冷暖房や給湯負荷の変動、生活行動の季節変容などを踏まえた実績をとらえ、「PVとEVのEVPSによる融合システムの導入効果について検証してみたい」と思います。
(1)稲村の家の電力システムの構成要素と電力フローの接続関係
稲村の家の電力システムの特徴は、オール電化で1FについてのみPVとEVをEVPSにより融合したシステムを組み込んでいることです。ただし戸建住宅としては1,2Fから成り、系統電力との間での接続関係が1Fと2Fの2世帯住宅として構成されており、系統電力との需給電力量測定や電力料金の売買支払いは独立になされています。また、1Fの融合システムには1F用エコキュートへの系統電力からの電力フローが含まれていないので、以下の議論では、1FについてもPVとEVのEVPCによる融合システムとEVならびにHome(宅内)の空調、照明、家事家電等との電力フロー(実践の矢印)を連結させた部分を“1Fコアシステム”、これと切り離されて系統電力と直結させた“1F用エコキュートシステム”を区別して扱うものとします。
そこで、以前のブログでは触れていなかった2Fの電力フローと1F用エコキュートへの電力フローを加えて、稲村の家全体(1F,2F)の電力システムを対象にしたFig.1の構成要素とそれらの間の電力フローに付した記号の説明をあらためて以下に示します。
E1:系統電力からの1Fへの全買電力量[kWh]
C1: 1Fコアシステムでの消費電力量 [kWh](1F用エコキュートの消費電力を含まず)
Ew:1F用エコキュートでの消費電力量(系統電力から直接供給)
E2:系統電力からの2Fへの全買電力量[kWh]
C2: 2FのHome(宅内)での消費電力量 [kWh](2F用エコキュートの消費電力を含む
(実際はE2=C2とみなしている)
さらに、1Fコアシステム関連では
E:系統電力からPVPCへの買電力量 [kWh]
S: PVからPVPCに取り込まれる電力量[kWh]
R: PVPCからの系統電力への余剰分の売電力量 [kWh]
P: PVPCからEVPSに送られる全電力量 [kWh]
F: EVPSからEVへの充電力量 [kWh]
B: EVからEVPSへの放電力量 [kWh]
D: EV走行用の消費電力量 [kWh]
L: EVPSによるEV電池との充放電過程のシステム損失電力量 [kWh]
という記号を用いています。
これらの各電力フロー間には、Fig.1の矢印で示された各電力フローの接続関係に従って、電力量に関する関係式を、以下のように導入しています。
・1Fの系統電力からの買電力量の構成について
式(1) E1 = E + Ew
・2Fの系統電力からの買電力量について
式(2) E2 = C2
・PVPCにおける電力フローの入出力収支バランスについて
式(3) E + S = P + R
ただし、PVPCの電力変換効率は96%とされるが、ここでは100%の返還効率と見なしている
・EVPSにおける電力フローの入出力収支バランスについて
式(4) P = F – B + C1
・EV電池における充放電の電力フローバランスについて
式(5) F = D + B + L
以下では、これらの関係式を使いながらデータの分析を進めて行きます。
(2)ブラックボックス的な観点から
Fig.1の系統電力から見た稲村の家の1F,2Fとの授受電力の推移を、売買電力量あるいはそれに伴う料金授受の各月の経過としてとらえます。すなわち、1Fコアシステムの内部には踏み込まず、外部から1F用エコキュートを含めた系統電力との関係についてブラックボックス的な観点で実績を検討します。
(2-1) 系統電力との電力量の授受における家庭の電力負荷の軽減
(a) EVPSによる融合システム導入後の系統電力量授受の年間実績
Fig.2は、EVPS導入直後の1年間(2019/10~2020/09)の系統電力からの1F,2Fへの買電力量E1,E2と、1Fからの系統電力への売電力量Rの月別の推移を示しています。また、E1,E2のそれぞれについて、昼間、朝晩、夜間の時間帯別の買電力量の内訳を月別に示したのがFig.2 (a)(b)になります。
まずFig.2について見てみます。
・1F,2Fの合計の月毎の買電力量(E1+E2)を比較すると、
最大値は2019/12の1370kWh/月、最小値は2020/4の730kWh/月で倍半分となっている、
冬と夏に山が、春と秋に谷があり、冬と夏では冬の消費が多い
・PV発電の余剰分の月毎の売電力量Rについては、
春から夏は400kWh/月以上の高水準(但し、7月は異常な長雨で低下)、秋から冬は200kWh/月に留まり、「稲村の家の電力消費の売電による補償効果は季節により大きく異なる」
・1Fの買電力量E1では、EVPSの作動スケジュールのプログラム設定により、
・昼間[10:00-17:00]は、PV発電力を可能な限り活用し、不足が生じてもEV電池からの放電を利用するので年間を通して系統電力からの買電は殆どない
・朝晩[7:00-10:00 & 17:00-23:00]は、EVの電池からの放電で家事や冷暖房が賄える、ただし、EVと独立な1F用エコキュート電力Ewの夏以外での朝晩の消費分が若干含まれる
・夜間[23:00-7:00]は、安価な深夜電力で、昼間・朝晩の放電で低下したEV電池を回復させる電力量Eと1F用エコキュート電力Ewの消費分の大半を加えたものとなる
よって「1Fでは系統電力からの全日の買電力量の大半の購入を夜間に行い、1Fだけの系統電力との売・買電力量のバランスは、春・夏は良好だが、秋・冬は売電が買電の半分以下」となります。
・2Fの買電力量E2では、PVやEVとの連動はなく、通常の独立した住宅として系統電力からの買電を行っていることから、「給湯のエコキュート用電力消費を夜間に行う以外は住生活における電力需要に見合った時間帯での消費電力構成となっている」のがわかります。
(b) EVPSによる融合システム導入前後の系統電力量授受実績の比較
1FへのEVPSによる融合システムの“導入前”の実績として、導入直前の2017年8月から2019年7月までの丸2年間における稲村の家全体(1,2F)の需給電力量の推移から月毎の平均値の経過として整理し、前述の融合システム導入後の1年間の実績と比較してみます。
Fig.3に稲村の家(1F,2F)の年間の全売買電力量について、融合システム導入前後の対比を、1F,2Fの買電力(E1+E2)とPV発電の余剰分としての売電力Rの内訳で示しました。さらに、Fig.3(a)(b)には、その年間のE1,E2のそれぞれの時間帯別買電力と売電力の内訳を、導入前後で対比させて示しました。
それらから、以下のことが読み取れるかと思います。
・導入前後で買電力量はE1が800kWh/年の増、E2で微増、(E1+E2)は900kWh/年の増加
・導入前後で買電力量のE1,E2比較では、導入前は5100kWh/年を挟んでE2がE1より500kWh/年程多く、導入後は5500kWh/年を挟んだ同レベルでE1がE2より僅かに多く逆転
・導入後のPV由来の売電力量Rは4000 kWh/年で、年間の買電力量E1の5650kWh/年の70%をカバーし、買電力E1と売電力R間の収支として1650kWh/年の買電力と等価ともみなせる
・1Fの買電力量E1の時間帯別構成比は、導入前後で一変し、昼間はほぼゼロに、朝晩も1/4程度になり、夜間が90% 近くを占めるようになりました
・2Fにおける買電力量E2の時間帯別構成比は、導入前後で不変
すなわち、融合システムの導入前後では、年間の系統電力に対する売買電力量について、
「稲村の家全体の買電力量(E1+E2)は、導入後に1000kWh/年弱の増加となったが、その大半が1Fの買電力量E1の増加による」
「1Fの買電力量E1の大半が夜間電力であって、その夜間電力の内容は、EVの電池が消費した、朝晩・昼間のC1とEVの走行によるDの補充に必要となる電力の深夜における充電分Fと1F用エコキュート電力Ewの夜間消費分の合計とみなせる」
「稲村の家の実績としては、その1Fの買電力量E1の夜間購入分の80%程が、PV由来の余剰による売電力量によって見合いがとれていること」
が興味深いところです。
(2-2) 系統電力との売買電力料金にみる家計負担の軽減
上述の(2-1)では系統電力との売買電力について電力量ベースでとらえましたが、ここでは料金ベースでとらえ、家計負担の軽減実績について検討します。
Fig.4に稲村の家(1F,2F)の年間の総売買電力料金について、融合システム導入前後の対比を、1F,2Fの買電力(E1+E2)とPV発電の余剰分としての売電力Rの料金の内訳を示しました。さらに、Fig.4(a)(b)には、その年間のE1,E2のそれぞれの時間帯別買電力と売電力の料金の内訳を、導入前後で対比させて示しました。
・導入前後で買電力料金は1F で31千円/年減、2Fで微増
・導入前後で買電力料金の1F,2F比較では、導入前は125千円/年を挟み2Fが1Fよりやや多かったが、導入後は1Fで91千円/年、2Fで132千円/年で、1Fが2Fより41千円/年と大幅に減少
・PV由来の売電力料金は97千円/年で1Fの年間買電力料金の106%と料金で売電が買電を上回った
・1Fにおける時間帯別の買電力料金の構成は、導入前後で一変、昼間はほぼゼロに、朝晩も18%に圧縮されたのに対し、夜間は70% 近くを占めた
・2Fにおける時間帯別の買電力の料金構成は、導入前後で大きな変化はない
以上、稲村の家におけるPVとEVのEVPSによる融合システム導入前後の系統電力に対する電力量と金銭の授受の1年間の実績を振り返りました。その内容を理解するときに、留意しておかなければならないことを2点挙げておきます。
1)1Fの電力消費におけるエコキュート消費分について: Fig.1に記されているように、1F用エコキュートでの電力消費分Ewは、系統電力からの1Fの買電力量E1に組み込まれていますが、EVPSによる融合システムとは切り離されています。例えば、EVPSによる融合システム導入後の1年間でみると、次節の「(3)システム分析的観点点から」で詳しく見ますが、1F用エコキュートへの投入電力はEw = 1291kWh/年であり、 E1 = 5669kWh/年の23%を占めます。このEwは融合システムの導入有無や作動状況によらず、1Fでのくらし方や外気温変動が年間を通して類似であれば、毎年ほぼ固定した電力を消費すると考えられます。
2) EV走行のためのバッテリー充電用の電力消費について: 融合システム導入後は、Fig.1にあるようにEV電池の充電量Fの内、走行用エネルギーとしての消費電力Dは、EVPSから供給をうけており、EVPSに取り込まれる電力Pの中で賄われることになります。したがってEVPS導入前にはマイカーの走行エネルギーは、EV導入前はガソリン購入で、EV導入後は市中の充電スタンドでの電力購入で賄われていて、焦点の稲村の家の電力システムからは切り離され、外部化されていたことになります。
(2021/03/02 記)
================= No.129へつづく ==================
# by humlet_kn | 2021-03-02 21:29 | 解かる | Comments(0)