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[No.43] “住まいづくり”のある試み (6): 実生活でのエネルギー消費を振りかえる(3)

2.2 稲村の家の全体的な消費電力の見積もり
 前節の各用途毎のエネルギー消費実態の見積もりを合計すると、「稲村の家」の各季節における電力消費量合計の実態は
 月間消費電力量:
    春秋期1F 251 [kWh/月]、 2F 364 [kWh/月]、  1,2F合計 615 [kWh/月]、
    夏 期1F 342 [kWh/月]、 2F 501 [kWh/月]、  1,2F合計 843 [kWh/月]、
    冬 期1F 440 [kWh/月]、 2F 645 [kWh/月]、  1,2F合計 1085 [kWh/月]、
と推定された。そのエネルギー消費用途別の内訳を記すと表1のようになっている。これらのデータをグラフ化すると、図3が得られた。
表1 季節毎の月間消費電力量推定(用途別)[稲村の家]
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 さらに、この季節毎の月間消費電力量推定値(用途別)をもとに年間の消費電力量推定値(用途別)を概算してみた。表2、図4、5にその結果を示した。
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 その特徴を見ると、[No.43] “住まいづくり”のある試み (6): 実生活でのエネルギー消費を振りかえる(3)_b0250968_1429865.jpg
・年間の消費電力量は9600[kWh/年](MJ換算で34500)[MJ/年])
・季節間の比較では、春秋期は一年を通して電力消費が最も少なく、夏期では37%増、冬期には75%増となっている。
この季節差の主たる要因は温熱環境のエネルギー負荷への冷暖房機器の電力消費であり、次いで給湯における温水の加温・保持のための電力消費も関わる。
・年間の合計電力消費の用途間の比較では、給湯が48%、冷暖房が23%、炊事が14%となっており、この3用途で85%となる。従来の家庭用電力需要の傾向として照明がかなりの割合を占めてきたが、LEDや電球型蛍光灯の導入効果が表れていて4%に留まっている。また意外だったのはトイレの電気便座の消費電力が4%と見積もられた点である。

 これらの推定結果について、資源エネルギー庁が行った「平成23年度エネルギー消費状況調査(民生部門消費実態調査)」[8]を参照すると
 ・年間の世帯当たりのエネルギー消費量の合計は
  150㎡以上の戸建住宅: 54,907 [MJ/世帯・年]
  関東地方の戸建住宅:  42,126 [MJ/世帯・年]
  4人世帯の戸建住宅:  49,217 [MJ/世帯・年]
  オール電化の戸建住宅: 43,473 [MJ/世帯・年]
 ・年間の世帯当たりのエネルギー消費量の用途別割合は、概ね
  150㎡以上の戸建・集合住宅: 給湯38%、冷暖房27%、厨房4%、照明 4%
  関東地方の戸建・集合住宅:  給湯43%、冷暖房20%、厨房5%、照明 5%
  4人世帯の戸建住宅:  給湯41%、冷暖房24%、厨房5%、照明 3%
  オール電化の戸建住宅: 給湯35%、冷暖房24%、厨房5%、照明 4%
となっており、稲村の家のエネルギー消費量推定値は
 ・年間の世帯当たりの合計で、一般の関東の広めの戸建住宅(49,000 [MJ/世帯・年]程度)に比して73%程度、オール電化の戸建住宅に比しても80%程度と、かなり抑制されている。
 ・用途別割合では、給湯が5~10%、炊事が10%程度多めである。その主たる原因は、「稲村の家」は暮らしに関してほぼ独立した2世帯住宅になっていることと思われる。
 ・用途別の消費電力量の値では、4人世帯戸建住宅と比べると、冷暖房で65%、給湯で80%、炊事で190%、照明で70%と、「高気密・高断熱、ソーラーサーキットの住宅」「エコキュート」および照明の「LED・電球型蛍光灯」の導入効果と思われる。

3.稲村の家の消費電力量の実測データを確かめる
上記のこれらの稲村の家の消費電力量の推定値について、実際の消費電力量(電力会社の測定データ)の実績値と比較してみよう。表3、図6は、稲村の家の毎月(2012/8~2013/7)の月間消費電力量の実績値を示している。
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 また、電力会社の使用電力量は、昼間、朝晩、夜間別にデータが集計されているので、それらの内訳が分かるようにグラフ化したのが、図7である。そこでは電力契約が1,2Fで別々に行っていることから、分けて示した。
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 これらの実績値を前述の消費電力量の推定値と比べてみよう。まず、季節毎の月間使用電力量であるが、実績値は
  春秋期 568 [kWh/月]、 夏期 883 [kWh/月]、 冬期 1131 [kWh/月]

であり、推定値
  春秋期615 [kWh/月]、 夏期 843 [kWh/月]、 冬期 1085 [kWh/月]

と類似している。実績値は、春秋期にやや下回り、夏冬期にやや上回っている。特に2013年の7月は例年より猛暑となっており前年の8月の実績は推定値に近い。
 つぎに実績値の時間帯別の季節変化と推定値の用途別の季節変化とを比べてみると、夜間電力量の実績値は、
  春秋期 241 [kWh/月]、 夏期 319 [kWh/月]、 冬期 443 [kWh/月]

であり、給湯のための消費電力量の推定値
  春秋期379 [kWh/月]、 夏期 350 [kWh/月]、 冬期 407 [kWh/月]

を比較すると、夏期、冬期は類似しているが、春秋期をかなり下回っている。実際の給湯状況を振り返ると入浴回数が減っている可能性もある。
朝晩の電力量の実績値は、
  春秋期245 [kWh/月]、 夏期 358 [kWh/月]、 冬期 547 [kWh/月]

主として冷暖房、照明、炊事、洗濯・掃除の大半の電力を使っていると考えると、推定値は
  春秋期155 [kWh/月]、 夏期 348 [kWh/月]、 冬期 501 [kWh/月]

となり、春秋期を除いて夏期、冬期とも類似している。

                                                   <No.44につづく>

# by humlet_kn | 2013-11-14 21:57 | 解かる | Comments(0)

[No.42] “住まいづくり”のある試み (6): 実生活でのエネルギー消費を振りかえる(2)

2.稲村の家のエネルギー負荷と機器・設備消費電力の実態を見積もる
[No.42] “住まいづくり”のある試み (6): 実生活でのエネルギー消費を振りかえる(2)_b0250968_20432233.jpg 私自身の生活の場である「稲村の家」(オール電化)[写真1]での昨年8月初旬から本年8月初旬までの1年間について、前項で概観した各カテゴリーのエネルギー負荷量と対応する機器・設備による消費電力を推定してみよう。
 まず稲村の家の基本的な住宅の仕様を記しておこう[図2]。
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  建て方と構造:1戸建て(地上総2階、小屋裏収納・吹抜)木質系軸組構造
  形式名称: ソーラーサーキットシステム
  建築面積: 91 m2
  床面積: 合計=173 m2 (1階= 88 m2, 2階= 85 m2)
  最高の高さ: 建物高さ=8.0m,軒高さ=6.3m
  断熱: 発泡プラスティック系断熱材,外断熱
  熱貫流率: 壁体= 0.36~0.56 [W/m2K],窓・ドア= 2.3~3.5 [W/㎡K]
  高気密性: 相当隙間面積 C [cm2/m2]
  気積: 合計419 m3 (1階= 192 m3, 2階= 227 m3)
  換気システム: 24時間換気(熱交換タイプ)

 また基本的な居住空間として1Fは1名、2Fは3名が利用しており、各フロアーでそれぞれがほぼ独立した暮らしを営んでいる。

2.1 各種エネルギー負荷と電力消費実態の見積もり
1) 温熱環境に係るエネルギー負荷と電力消費実態の見積もり
 室空間と外気環境との間の「建物壁体・窓を通した熱貫流入出量」、「換気システムを介した熱流入出量」について推測値は以下の通りである。
(a) 建物壁体・窓を通した熱貫流入出量
 建物外皮面積=外壁面積+2階天井面積+1階床面積= 411 m2
建物全体の熱貫流入出率
  =全外壁・天井・床面熱貫流入出率+全開口部熱貫流入出率
  =(370 m2×0.5[W/ m2 K] )+(40 m2×3.0[W/ m2 K] )= 305 [W/K]
よって、
夏期(外気と室設定温の平均差4 Kが10h/日、30日/月出現するとする):
 月間熱貫流入量=0.3×4×10×30=360 [kWh/月]
冬期(外気と室設定温の平均差10 Kが10h/日、30日/月出現するとする):
 月間熱貫流出量=0.3×8×10×30=720 [kWh/月]
(b) 換気システムを介した熱流入出量
 空気の熱容量 = 2.7 [kcal/m3K] = 3.14 [kWh/ m3K]
 建物内気積の換気(1回/h)による全熱容量 = 3.14×419 = 1.32 [kW/K]
 建物内気積の効率40%の熱交換型換気による熱負荷率 = 1.32×0.6 = 0.79 [kW/K]
よって、
夏期(外気と室設定温の平均差4 Kが10h/日、30日/月出現するとする):
 月間熱交換換気熱負荷量=0.79×4×10×30=948 [kWh/月]
冬期(外気と室設定温の平均差8 Kが10h/日、30日/月出現するとする):
 月間熱交換換気熱負荷量=0.79×8×10×30=1896 [kWh/月]
(c) 暖冷房機器の電力消費量
 上記(a)(b)で試算した夏期、冬期の温熱環境に関わる冷/暖熱エネルギー負荷をヒートポンプ式のエアコンで対応する場合の消費電力を推定する。稲村の家で実際に装備しているエアコンの冷・暖能力/消費電力は、1Fは2台で(冷房6.5kW/1.47kW;暖房7.5kW/1.53kW)、2Fは3台で(冷房10.0kW/2.70kW;暖房11.7kW/2.48kW)である。通年のエネルギー消費効率(APC)[7]1Fで5.3-6.3、2Fで5.4-6.9となっており、石油等からの発電効率を35%としても、石油を直接燃焼して熱エネルギーを得るよりも、2倍程度の効率的なエネルギーの活用がなされていることになる。このエアコン5台のエネルギー消費効率を、夏期5.0、冬期6.0として冷暖房エネルギー負荷量をまかなう月間の電力消費量を推定した。
 夏期(7,8月):
   冷房エネルギー負荷=[月間熱貫流入量]+[月間熱交換換気熱負荷量]
    = 360 [kWh/月] + 948 [kWh/月] = 1308 [kWh/月]
   冷房消費電力=冷房エネルギー負荷/APC = 1308/5.0= 262 [kWh/月]
 冬期(12,1,2月):
   暖房エネルギー負荷=[月間熱貫流出量]+[月間熱交換換気熱負荷量]
    = 720 [kWh/月] + 1896 [kWh/月] = 2616 [kWh/月]
 暖房消費電力=暖房エネルギー負荷/APC = 2616/6.0= 436 kWh/月

 なお、ここでは、太陽光の日射、天空輻射、空気湿分の影響や、室内での家電品や調理器具の発熱、他の暖冷房機器の発熱、そして居住者の身体からの発熱による(正負の)熱エネルギー負荷は考慮していない。
2) 給湯に係る熱エネルギー負荷と電力消費実態の見積もり
[No.42] “住まいづくり”のある試み (6): 実生活でのエネルギー消費を振りかえる(2)_b0250968_20491081.jpg 稲村の家では、「エコキュート」(写真2)による給湯システムを採用しているが、温水の使用量の年間を通した平均は概ね1F、2Fで300 ℓ/日、200 ℓ/日で合計500 ℓ/日ある。1Fでは浴槽があり3日毎に入浴している。この給湯システムでは、ヒートポンプを用いて、常温の水道水を80℃程度に加温し、貯湯保温するが、水道水の常温は夏と冬では異なり加温ならびに貯蔵保温に必要な熱エネルギー負荷は異なってくる。常温の水道水の温度を、夏期は20℃、冬期は10℃としてみると、加温に必要な熱エネルギー負荷およびエコキュート消費電力は、年間保温給湯効率を3.0とすると、
 夏期: 熱エネルギー負荷 500 [ℓ/日]×60K×1.163 [Wh/ℓK]=35.0[kWh/日]
     エコキュート消費電力= 熱エネルギー負荷/ 給湯保温効率
      = 35.0 / 3.0 =11.7[kWh/日]=351[kWh/月]
 冬期: 熱エネルギー負荷 500 [ℓ/日]×70K×1.163 [Wh/ℓK]=40.7[kWh/日]
     エコキュート消費電力= 熱エネルギー負荷/ 給湯保温効率
      = 40.7 / 3.0 =13.6[kWh/日]=407[kWh/月]

3) 照明に係る光エネルギー負荷と電力消費実態の見積もり
 稲村の家では、2年前の新築に伴う照明器具の導入時に、照明器具の仕様からLEDを採用できない箇所を除き、極力LED化を進めた。結果として、半分程度がLEDであり、他の照明も低消費電力の多様な形状の蛍光灯を導入している。ここでの主要な居住室としては、1Fで全室照明(3000 lm)の部屋を2室、2Fでは3室とみなすことができる。実際の照明のための光エネルギー負荷および照明器具の消費電力量を見積もるため、照明時間を夏期は4時間、冬期は6時間と設定した。
 夏期: 光エネルギー負荷= 3000 [lm/室] ×5室×4[h/日]×30[日/月]=1800[klm h/月]
     照明器具消費電力
      = (0.5×40 [W/室]+ 0.5×36 [W/室])×5室×4[h/日]×30[日/月]=22.8[kWh/月]
 冬期: 光エネルギー負荷= 3000 [lm/室] ×5室×6[h/日]×30[日/月]=2700[klm h/月]
     照明器具消費電力
      = (0.5×40 [W/室]+ 0.5×36 [W/室])×5室×6[h/日]×30[日/月]=34.2[kWh/月]

4) 食品保存に係る冷蔵・冷凍庫の電力消費実態の見積もり
 ここでは大まかな見積もりとして、1Fの465 ℓ、2Fの440 ℓの冷蔵庫の製品仕様書にある年間消費電力量(実生活での使用環境、使用方法を想定した測定試験に基づく実効的な年間の消費電力量のめやす)を採用する。
 年間: 冷蔵・冷凍庫消費電力
   = [1Fの冷蔵庫の年間消費電力量]+ [2Fの冷蔵庫の年間消費電力量]
   = 238 [kWh/年] + 241 [kWh/年] = 479 [kWh/年]
  月間消費電力 = 19.8 [kWh/月] + 20.1 [kWh/月] = 39.9 [kWh/月]
5) 炊事のための熱エネルギー負荷と電力消費実態の見積もり
 1,2Fにキッチンを配置し、共に3kWのコンロを2つもつIH調理ヒーター、電子レンジ、IH炊飯器を設置している。これらの日常の使用方法、機器の仕様を踏まえて、調理機器の月間消費電力を以下のように推定した。
 IHコンロ: 1F 30 [kWh/月]、  2F 60 [kWh/月]
 電子レンジ: 1F 6.0 [kWh/月]、  2F 7.2 [kWh/月]
 IH炊飯器: 1F 1.2 [kWh/月]、  2F 2.3 [kWh/月]

これらの3つの調理器に加え、トースター、フードプロセッサー、食器洗い機などが使われていることを考慮して、炊事のための消費電力量の合計を以下のように試算した。
 月間消費電力量: 1F 40 [kWh/月]、  2F 70 [kWh/月]
6) その他の機器、設備の電力消費実態の見積もり
 1,2Fでそれぞれ使用している、洗濯機・掃除機各1台、液晶TV各1台、トイレの電気便座各1台について、それらの機器仕様および使用実態から、月間消費電力量を推定した。
 洗濯機・掃除機: 1F 6 [kWh/月]、  2F 3 [kWh/月]
 液晶TV & PC: 1F 10 [kWh/月]、  2F 10 [kWh/月]
 電気便座:    1F 12 [kWh/月]、  2F 17 [kWh/月]

                                                  <No.43につづく>

# by humlet_kn | 2013-11-14 19:04 | 解かる | Comments(0)

[No.41] “住まいづくり”のある試み (6): 実生活でのエネルギー消費を振りかえる(1)

[No.41] “住まいづくり”のある試み (6): 実生活でのエネルギー消費を振りかえる(1)_b0250968_18344972.jpg 昨年の本ブログの記事No.6~No.10で「“住まいづくり”のある試み」というシリーズを掲載した。その際の基本的スタンスは、この家に住み始めて数か月の時点での、私の住まいづくりにおける考え方を紹介するものであった。その後、1年余りを過ぎて、本住居も築後2年になり、私自身のこの家での暮らしも1年半になることから、あらためて、住まいづくりのねらいが実現できているのか、振り返ってみたいと考えたのである。
 今回の記事では、この家(稲村の家)の住まいづくりにおける大きな柱である「高気密・高断熱・ソーラーサーキット・オール電化」(本ブログNo.8参照)という住宅仕様について、1年間の電力消費の実績データに基づき、その性能を検証してみたい。併せて、同様の基本仕様の住宅に加えて、太陽光発電システムを導入されて電力消費ならびに発電、売電の実績データを公開された方の情報[1]と比較しながら、ゼロ・エネルギー住宅の実現の可能性についても、考察を加えてみたい。
1.住宅におけるエネルギー負荷要因と対応機器・設備の動向を探る
 住宅という場での暮らしにかかわるエネルギーは、主として室内の温熱環境の維持、入浴や洗面・家事のための給湯、照明環境の確保、食品保存のための冷蔵・冷凍庫の運転、コンロやレンジによる調理のための加熱、洗濯や掃除などの家事用の動力の供給、情報家電やPC/ネットワーク機器の作動などに消費される(図1)。すなわち熱、動力、光、音エネルギーとしての消費であり、稲村の家ではこれらへのエネルギー供給はすべて電力によっており、電力会社からの購入に依っている。では、これら住宅におけるエネルギー消費を節約するためにはどのような方策があるであろうか。基本はエネルギー負荷を抑えることであるので、エネルギー負荷の要因を挙げてみよう。
1) 温熱環境に係る熱エネルギー負荷と暖冷房機器
 室内の温熱環境は、冬は20℃前後、夏は27℃前後に維持されるように調整されると考えると、冬は設定室温20℃と外気温との差異に応じて熱が室内から外気へ流出し、夏は設定室温27℃と外気温との差異に応じて熱が外気から室内へ流入するため、それら流出入熱エネルギーを補償することが、主たる熱エネルギー負荷となる。外気と室内の間の屋根・床・壁や窓を通して、あるいは換気を介した流入出熱エネルギーを抑制するのに効果を発揮するのが「高気密・高断熱・ソーラーサーキット」なのである。また、室内での家電品や調理器具の発熱、他の暖冷房機器の発熱、そして居住者の身体からの発熱も熱エネルギー負荷となる。
稲村の家ではこの熱エネルギー負荷に対応するため、主としてヒートポンプ・エアコンを活用しており、冬は電気ストーブ、ホットカーペットなども補助的に使っている。
2) 給湯に係る熱エネルギー負荷と給湯システム
 入浴や洗面・家事における給湯は、常温の水道水の加熱により40℃前後の温水を作り出すことであるので、加熱に要する熱エネルギーが負荷になる。これは常温水と必要な温水との温度差ならびに温水の使用量に依存することになる。ヒートポンプの高い変換効率を生かして深夜電力を熱エネルギーに変換し貯湯するシステムが「エコキュート」であるが、貯湯温度は60~95℃である。この熱エネルギー負荷を抑制するには、温水の温度と使用量を抑える以外にはない。なおエコキュートの最近の機器では、1年間を通してある一定の条件のもとにヒートポンプ給湯機を運転した時の単位消費電力量あたりの給湯熱量およびふろ保温熱量を表した「年間給湯保温効率」も3.0以上になっている[2]
3) 照明のための光エネルギー負荷と照明機器
 照明は従来から家庭の電力消費全体の中で大きな割合を占めてきた。わが国の文化では各部屋に部屋全体を照らし出す天井照明を設けるのが標準的であったが、近年は欧米の影響やインテリアとしての光の演出嗜好の高まりもあって、部分照明や間接照明も導入されるようになった。これらの照明を効果的に組み合わせて、生活シーンや用途に応じて点灯され調光されるようになっており、光エネルギー負荷を減らせる可能性もある。しかし、実生活での照明のための消費電力を考えると、主たる使用が夕暮れから夜間の就寝までと起床後の早朝の時間帯とすると、年間を通して夏期と冬期ではかなり光エネルギー負荷も異なるであろう。
 光エネルギー負荷を担う照明器具の消費電力の節約が現実には重要である。白熱電球はその役割を終えた今、蛍光灯やLED照明がその担い手になってきている。LED照明も数年前の価格の高さはかなり抑えられ、演色性や光束の自由度も増すとともに、長寿命性も認識され、社会的な受容性は高まっている。現在の各種照明の発光効率を比べると、概ね、白熱電球で15[lm/W]に対し、蛍光灯で70~80[lm/W]程度、LEDで80~85[lm/W]程度となっている[3][4]一室での全室照明で3000(lm)を要するとすると、白熱電球、蛍光灯、LEDでの消費電力は、それぞれ200(W)、40(W)、36(W)程となる。ただし、私的経験でも実際にLED照明を直接照明として使った場合、どうしてもその光の鋭さが気になっており、生体への影響評価も定まっていない部分もあることから、早急な解明と技術革新が望まれるところである。
4) 食品保存のための熱エネルギー負荷と冷蔵・冷凍庫
 高断熱の収納庫とヒートポンプにより、食品を低温あるいは冷凍状態にすることで腐敗や品質低下を抑制する。冷熱エネルギー負荷は保存食品の設定温度、収納量、そして室温とドアの開閉による冷気流出の頻度に依存することになることから、夏期には冷熱負荷が高まることになる。
5) 炊事のための熱エネルギー負荷と加熱調理機器
 キッチンにおける炊事のための熱エネルギー負荷は、主としてコンロ、レンジおよび炊飯器による加熱であり、調理済みの総菜、レトルト食品、冷凍食品、食材からの手作り調理、そして料理の好みなど食生活のスタイルによって大きく異なる。では、消費エネルギーの観点からはどうであろか。従来はガスの燃焼による加熱が支配的であったが、近年は電気・IH調理器と電子レンジの普及が著しい。ガスコンロ、電子レンジ、IH調理器の間での加熱時の熱効率を比較すると、それぞれ60%、40%、80% 程度といわれるが[5]、2次エネルギーとしての電力は化石燃料等の1次エネルギーからの変換の総合効率が35%程度であることを考慮すると、電子レンジ、IH調理器については13%,26%程度となりガスコンロが優位である。ただし、実際の調理ではガスコンロの場合、鍋などの調理容器の影響で大きく効率が変わるとみられ、フライパンでの水の加熱実験ではガスコンロ、電子レンジ、IH調理器の熱効率の実測値が29%、32%、56%であったとの報告[6]もある。ここでも1次エネルギーからの効率に換算すると、電子レンジ、IH調理器については、11%、19%となる。
6) 洗濯・清掃の動力エネルギー負荷と洗濯機・掃除機
 洗濯や掃除などの力仕事を家電機器で行うのに必要な動力エネルギーであり、汚れ落としや塵埃の吸引を効果的に行う技術が開発されてきているが、稼働時間は短時間であり、家庭全体のエネルギー負荷の中で、さほど大きな位置はしめないと考えられる。ただし洗濯機には乾燥機能を持つものもあり熱エネルギー負荷としても留意する必要がある。
7) 情報処理・通信の映像・音響エネルギー負荷と情報家電機器
 ネットワーク社会が進む中、インターネットと融合する情報機器はPC、スマートホン、電子ブックと多様性を増し、今後も新たな機器への展開が進むものと考えられる。また従来の放送系のマスメディアのテレビやラジオそして撮影・記録・再生機器も高画質・高音質化に加えて、通信ネットワークとの融合が図られオンデマンド性や番組参加性・発信性を強めてゆくものと見られている。ただし、エネルギー消費の観点では、ディスプレイを伴う機器の大型化や保有台数の増加が課題となるが、光源のLED化などによりエネルギー負荷の増加は抑えられると考えられる。
8) その他のエネルギー負荷と住宅設備・機器 上述のカテゴリーに含めにくいが、近年多くの家庭に導入されている電気便座について留意したい。基本的には電力で便座や洗浄水を加温するのであるが、間欠的な使用にもかかわらず常時加温状態で使用されているケースもあり、エネルギー負荷の対象としての配慮が必要であろう。

                                                  <No.42につづく>

# by humlet_kn | 2013-11-14 18:39 | 解かる | Comments(0)

[No.40] 鎌倉そぞろ歩き(6): 稲村と七里の浜辺の息づかい ― 夏が過ぎ、秋が始まる

 10月に入ったというのに全国各地で真夏日が記録されるというニュースが聞かれるこの秋である。鎌倉でも私自身、山里で二分咲きの桜を目にしたが、ちょっと記憶にない陽気となっている。それでも、今日の空気は秋そのものであり、秋の始まりを前に、この夏の浜辺を人々や生き物のスナップ写真で振り返っておこうと思った [2013/10/14記]。

◇皐月~さつき
[No.40] 鎌倉そぞろ歩き(6): 稲村と七里の浜辺の息づかい ― 夏が過ぎ、秋が始まる_b0250968_948549.jpg 七里ヶ浜にあるプリンスホテル下のパーキングの岸壁は江の島を望むちょっとした癒しのコミュニティスポットである。早朝、時折、浜に降りる階段に腰を下ろして詠ずる女人を目にする[写真1]。(2013/05/22)

     古事記詠む 遊子の声に 潮騒と
          ひかり重ねる 浜木綿の磯



[No.40] 鎌倉そぞろ歩き(6): 稲村と七里の浜辺の息づかい ― 夏が過ぎ、秋が始まる_b0250968_9502020.jpg
 稲村ヶ崎は、かつては袖ヶ浦といわれていた。私の子供の頃は同名の海水浴場の旗が立てられていた。打ち寄せる波も穏やかな朝は釣り人も長閑に見える[写真2]。(2013/05/25)

[No.40] 鎌倉そぞろ歩き(6): 稲村と七里の浜辺の息づかい ― 夏が過ぎ、秋が始まる_b0250968_9511259.jpg


 シラス漁は3月に始まり12月まで続けられるが、漁獲量には、4・5月、7月、10月の3回のピークがあるという。シラスはイワシの稚魚で、季節によってその種類は変動するようである。この日も、数隻の漁船が、この浜辺近くまで寄せてきて、その漁の様子が手に取るように見える[写真3]。(2013/05/27)




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◇水無月~みなづき
 鶴岡八幡宮に詣でると舞殿の辺りは鳩が集まっているのを目にする。鎌倉豊島屋の銘菓「鳩サブレー」もこれに因んでいるのであろう。あの七里ヶ浜パーキングでも、睦まじい番い(つがい)の鳩を時折みかけることがある[写真4]。(2013/06/04)




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 夏の賑わいが近づいてくると、波の様子がモニターされ、「良好」となると、この地の海岸にはサーファー達が早朝から集まってくる。七里ヶ浜のパーキングも6時の開門を待ち、遠方から続々と車でやってくる。もちろん地元のサーファーも自転車やバイクにボードを取りつけて乗りつける[写真5]。(2013/06/27)


◇文月~ふみづき
[No.40] 鎌倉そぞろ歩き(6): 稲村と七里の浜辺の息づかい ― 夏が過ぎ、秋が始まる_b0250968_1021996.jpg 7月に入って、この一週間は毎日最高気温が33~34℃を記録していた。この日は大きなうねりが稲村にも打ち寄せ、早朝から多くのサーファーが楽しんでいた[写真6][No.40] 鎌倉そぞろ歩き(6): 稲村と七里の浜辺の息づかい ― 夏が過ぎ、秋が始まる_b0250968_1032173.jpg稲村ヶ崎の切通しを越えて坂之下側の岸壁に沿った遊歩道に歩を進めると、昇ったばかりの陽光が霧の中に散策人や休息人のシルエットを浮かび上がらせた[写真7]。(2013/07/13)




◇葉月~はづき
 8月に入っても猛暑が続いていた。夕涼みは、夏の風物である。鎌倉は、夕刻になると海風が上ってくるのであるが、今年は宵になっても暑さが和らぐことはなかった。そんな中、恒例の鶴岡八幡宮のぼんぼり祭りに、足を運んでみた。宵闇に琴の音が響き文人等の4百の淡い灯が浮かび上がった。海辺の古都の幽玄である[写真8,9,10]。 (2013/08/09)
[No.40] 鎌倉そぞろ歩き(6): 稲村と七里の浜辺の息づかい ― 夏が過ぎ、秋が始まる_b0250968_1045384.jpg [No.40] 鎌倉そぞろ歩き(6): 稲村と七里の浜辺の息づかい ― 夏が過ぎ、秋が始まる_b0250968_1051224.jpg[No.40] 鎌倉そぞろ歩き(6): 稲村と七里の浜辺の息づかい ― 夏が過ぎ、秋が始まる_b0250968_1091049.jpg

 マッタリとした朝の空気に満ちた相模の海。彼方には、伊豆の山々と数隻の白い漁船が望まれる[写真11](2013/08/28)。
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     天かける 夏の名残の 波の音

◇長月~ながつき
 朝の散歩、わが家から一の谷を北へ向かうと山越えで、極楽寺に下りることができる。この日も、異常な暑さの朝を迎えた。極楽洞近くの導地蔵の傍らにはこんな小さな石仏があった[写真12]

     芙蓉咲き 地蔵微笑む 道の端
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 そのまま稲村の海にむかうと、波打ち際には、女の子と父親の微笑ましい姿が見られた[写真13]。(2013/09/01)[No.40] 鎌倉そぞろ歩き(6): 稲村と七里の浜辺の息づかい ― 夏が過ぎ、秋が始まる_b0250968_14243036.jpg






 このところ気象の話題「スーパーセル」が盛んである。従来の「積乱雲」の範疇を越えて、いくつもの積乱雲が束になって巨大な集合体を作り、集中豪雨や雷雨そして竜巻を引き起こしている。そんな雲行きをこのところの朝の散歩でも見かけることがある[写真14]。私たちの暮らしも対応を迫られようとしている。(2013/09/03)
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     秋空に 富士を従え そびえ立つ
           むかし入道 いまスーパー


[No.40] 鎌倉そぞろ歩き(6): 稲村と七里の浜辺の息づかい ― 夏が過ぎ、秋が始まる_b0250968_14282134.jpg さすがに、虫の音が騒がしくなり秋の季節をかなり感じるようになってきた。そんな気配を、海面を飛び跳ねる魚に重ねてみた[写真15]。(2013/09/12)

     ここかしこ 魚飛び舞う 七里浜
          夏の名残りの 朝ぼらけ


 24年ぶりに稲村クラッシックが開催された朝[写真16]
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     小動の 岬に寄せる 白波に
          うす紫の 富士ぞ浮かびぬ


  遠洋の台風が運んでくれた波そして波
  長くまっすぐに伸びた波頭が幾重にも
    重なり合って寄せてくる
  大気を巻き込み しぶきを上げる

  さあ サーファー達が挑む
    稲村クラッシックの
    伝説の一日が始まる

  [写真17] (2013/09/26)[No.40] 鎌倉そぞろ歩き(6): 稲村と七里の浜辺の息づかい ― 夏が過ぎ、秋が始まる_b0250968_1436170.jpg









 これが秋の輝きが満ちた海原なのか。稲村ヶ崎の彼方に天城を望む。よく見ると相模湾の恵みを捕獲する船影が何隻も見える[写真18]。(2013/09/27)
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[No.40] 鎌倉そぞろ歩き(6): 稲村と七里の浜辺の息づかい ― 夏が過ぎ、秋が始まる_b0250968_15331414.jpg 七里ヶ浜にも確実に秋が到来しているのだろう。秋空の夕陽は黄金色に染まり始め、テールランプの向こうには語らう二人が・・・[写真19]。(2013/09/29)



◇神無月~かんなづき
 ようやく鎌倉にも寺院散策の観光客が戻り始めた。例年に比べると気温の高い日が多いが、今朝の水平線は、三浦、大島、伊豆から箱根の山々を浮かべ、くっきりと一直線に伸びている。

     群青の 帯の彼方の 舟や船
          朝の茜に 浮かぶ大島

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 足元の浜辺では、波打ち際を歩く人々も少しずつ増えてきているようだ[写真20]。(2013/10/13)


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# by humlet_kn | 2013-10-15 10:12 | 出あう | Comments(0)

[No.39] くらしをひもとくシステム思考(4)-うごく(1-2)-

<<<<< No.38 からつづく >>>>>

4.各代替案がもたらす対象システムの様態を推測する
 ここでは、踏切保安設備の4つの制御方式の違いを、高齢者(3typeを設定)が警報機の鳴り始めと同時に踏切に進入した場合の歩行横断挙動の様態を前述のモデルによってとらえてみよう。
[No.39] くらしをひもとくシステム思考(4)-うごく(1-2)-_b0250968_212840.jpg (A0) 現状の制御方式
 時刻t=0に踏切に進入し始め、同時に警報機が鳴り出すとする。歩行速度は v(t) = 1.2×V0で渡り始め、渡り終えるとv(t) = V0に戻す。その間、t_shut = TG = 18 [秒]には遮断閉鎖が完了し、さらにt_reach = TG + TS = 18+28 = 46 [秒]には列車が踏切りに到達し、通過してゆく。
 図3は、上段に警報機と遮断機の作動状態の時間推移を表し、下段に遮断残存時間および列車到達残存時間の推移を表している。


 図4~6は、3typeの高齢者について上段に歩行速度、下段に渡り切るまでの残存距離の時間推移を表している。
[No.39] くらしをひもとくシステム思考(4)-うごく(1-2)-_b0250968_2132349.jpg 遮断完了時点t_shut =18[秒]での、残存距離 x(t_shut) は
Type a, b, cについてそれぞれ 0, 5, 13 [m]
であり、列車到達時点t_reach =46[秒]での、残存距離 x(t_reach) は
Type a, b, cについてそれぞれ 0, 0, 0 [m]
であるが、Type cでは渡り切り時点t_over = 46秒に間一髪で列車到着と同時に渡り切っており、事故のリスクが非常に高い



[No.39] くらしをひもとくシステム思考(4)-うごく(1-2)-_b0250968_2141168.jpg [No.39] くらしをひもとくシステム思考(4)-うごく(1-2)-_b0250968_2145564.jpg

(A1) 遮断時期早期化方式
[No.39] くらしをひもとくシステム思考(4)-うごく(1-2)-_b0250968_2155763.jpg 図7は、上段に警報機と遮断機の作動状態の時間推移を表し、下段に遮断残存時間および列車到達残存時間の推移を表している。代替案(A0)における図3と比較すると、列車到猶予時間は変わらないものの、遮断閉鎖完了が5秒早まっており、その下での3Typeの横断者についての歩行速度、残存距離の推移は、図4~6と同じであることから、結果として、
遮断完了時点t_shut =13[秒]での、残存距離 x(t_shut) は
Type a, b, cについてそれぞれ 5, 10, 16 [m]
であり、列車到達時点t_reach =46[秒]での、残存距離 x(t_reach) は
Type a, b, cについてそれぞれ 0, 0, 0 [m]
である。すなわち、すべてのTypeの高齢者について、遮断閉鎖完了時点でも踏切内にいて、安心して横断できる状態ではない。ただし、警報機作動中で遮断閉鎖前に侵入してしまう「無理侵入者」を抑止できる効果もある。

(A2) 遮断時期遅延化方式
[No.39] くらしをひもとくシステム思考(4)-うごく(1-2)-_b0250968_2164922.jpg 図8は、上段に警報機と遮断機の作動状態の時間推移を表し、下段に遮断残存時間および列車到達残存時間の推移を表している。代替案(A0)における図3と比較すると、列車到猶予時間は変わらないものの、遮断閉鎖完了が5秒遅れており、その下での3Typeの横断者についての歩行速度、残存距離の推移は、図4~6と同じであることから、結果として、
遮断完了時点t_shut =23[秒]での、残存距離 x(t_shut) は
Type a, b, cについてそれぞれ 0, 0, 11 [m]
であり、列車到達時点t_reach =46[秒]での、残存距離 x(t_reach) は
Type a, b, cについてそれぞれ 0, 0, 0 [m]
である。すなわち、Type cの高齢者については、遮断閉鎖完了時点でも踏切内にいて、あまり安心して横断できる状態ではないし、無理侵入者を増やして事故の危険性を高めかねない。

(A3) 弱者待機警報付加方式
[No.39] くらしをひもとくシステム思考(4)-うごく(1-2)-_b0250968_2174394.jpg 図9は、上段に警報機と遮断機の作動状態の時間推移を表し、下段に遮断残存時間および列車到達残存時間の推移を表している。代替案(A0)における図3と全く同じであるが、本代替案では、「弱者向けの待機警報機」を付加し、通常の警報機より10秒早くから作動させることとし、高齢者や病人など弱者と自覚している横断者に、その警報下では踏切侵入を控えるよう要請するとした。ここでの3typeの高齢者は、待機警報機が鳴り始める直前の侵入を想定した。



 それらの横断者の歩行速度、残存距離の推移を、図10~12に示した。


[No.39] くらしをひもとくシステム思考(4)-うごく(1-2)-_b0250968_2183590.jpg 結果として、遮断完了時点t_shut =18[秒]での、残存距離 x(t_shut) は
Type a, b, cについてそれぞれ 0, 0, 9 [m]
であり、列車到達時点t_reach =46[秒]での、残存距離 x(t_reach) は
Type a, b, cについてそれぞれ 0, 0, 0 [m]
である。すなわち、Type cの高齢者については、遮断閉鎖完了時点でも踏切内にいて、あまり安心して横断できる状態ではないが、列車到達時点までにはある程度余裕をもって渡り切ることができている。そして、このことが他の通常の歩行者や車両の横断には影響を及ぼさないで済むのである。


[No.39] くらしをひもとくシステム思考(4)-うごく(1-2)-_b0250968_21105781.jpg[No.39] くらしをひもとくシステム思考(4)-うごく(1-2)-_b0250968_21115422.jpg

5.各代替案間での比較評価を行なう
 以上、生見尾踏切に焦点を当て、「踏切の保安設備基準」を満たしている現在の警報機および遮断機の作動制御方式をベースの代替案A0とし、遮断機の閉鎖完了時点を前後する代替案A1とA2を設定するとともに、若干の設備改善を要するが新たに「弱者向けの待機警報」の導入を図る代替案A3について、3つのTypeの高齢者に対する、歩行横断での挙動を検討した。その結果を踏まえて、前述の評価視点から、これら代替案間の比較評価をまとめたのが表2である。評価結果の記号は、現状の制御方式であるA0に対する優劣をそれぞれ2段階で示しており、○と◎が優側、▽と▼が劣側を表している。
[No.39] くらしをひもとくシステム思考(4)-うごく(1-2)-_b0250968_2114222.jpg 現状の制御方式を警報機や遮断機の時間調整で安全性を高めることができれば、経費的には抑えられるのであるが、一般的には、警報機や遮断機の作動時間を長くすれば、横断交通量を減少させざるを得ず、社会的効率の観点からは望ましくないことになる。すなわち、安全性と社会的な効率性や鉄道運営者の経済性とのトレードオフに陥ってしまう。
 そこで、まずは警報機の作動時間は固定し、遮断機の作動時点を前後に調整する制御方式(A1,A2)を取り上げたが、「安心性の改善」や「無理侵入者の危険性の低減」を図れる可能性をあるものの高齢者(杖つき)の「安全性」を確保することは難しい。これに対し「弱者向けの待機警報」の導入を図るA3は弱者自身には踏切待ち時間負担を増大させるものの、他の横断者への交通への影響は与えずに、弱者の安心性、安全性、横断方向動作負担でも評価の向上が期待され、このために、鉄道事業者や自治体などの若干の経費負担を要請することになる。
 実際の踏切への具体的な制御方式の適用では、こうしたシステム思考により、それぞれの特質とメリット/デメリットを明らかにしながら、検討することが望まれる。

6.まとめ
 道路や鉄道を横断する歩行者のための施設は、立体交差化を志向して改善がつつめられてきているが、未曽有の高齢社会に入りつつあるわが国では、その運動能力や認知能力を考慮すると単純に横断歩道橋や跨線の歩道橋を作れば済むということにはならず、バリアフリー化を併せて図ることが求められる。しかし、そのための社会的コストも膨大になる。現実的には、既存の横断歩道や踏切設備を活用しつつ、利用者の意識の変革と、設備改善の工夫で対応できることは積極的に進めることが望まれるのである。
 高齢者の交通事故としては、道路横断時の事故も深刻である。しばしば言われるのは、高齢者は、横断歩道の信号サイクルの中で、現在の現示が青信号であっても、一旦赤信号になった後、再び青信号になるまで待ってから渡り始め、歩行者の青現示時間を最大限フルに活用して渡ることである。通常の歩行者は、横断中に青信号が点滅しても、速度を上げて何とか渡り切ることができるが、運動能力の低い高齢者には難しいのである。
                                                               (2013/10/06)
[追考]:
◆ 2013年8月25日、生見尾踏切の事故が2日後、私は東京行きの横須賀線に乗って、車窓から右手を注視していた。横浜駅停車後、京浜東北線の新子安駅を過ぎて、その踏切通過を待っていた。実感としては、この付近は3路線の電車が並行して走っているため、多くの人車共用の横断道が足下や頭上を過ぎていった。そして、その瞬間、鮮烈な赤茶色と緑色の帯が、目の前を過ぎていった。思わず「ここで・・・」と心の中で叫び、冥福を祈った。その後も、鶴見駅を過ぎるまでに、踏切らしきものは一つ認識できただけであった。
◆ 私自身、この夏に87歳の母の散歩をたびたび共にし、わずかな勾配を往復する30分ほどに付き添ったことがあった。早朝ではあるが、猛暑の中の歩行は、年寄りにとってはきついもので、その歩みは異常に遅く、日々の暑さや湿気などによっても異なり、10分毎に路傍の石に腰かけて休まなければならなかった。上述の事故当時のこの8月の夕方の状況下では、高齢者(杖つき)の踏切の横断速度を0.4[m/秒]と想定していることも納得できるところである。

【参考文献】
[1] 内閣府:「平成25年版交通安全白書」,http://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/index-t.html.
[2] 東京新聞:「鶴見踏切事故で横浜市長 バリアフリー化 歩道橋整備を表明」2013/9/14,
http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/20130914/CK2013091402000126.html
[3] 国土交通省:改正鉄道技術基準等(H17/1/12) 鉄道の技術上の基準に関する省令「鉄道の技術上の基準に関する省令 第7章 第二節」,
http://www.rail-e.or.jp/modules/library/index.php?content_id=15
[4] 朝日新聞DIGITAL:「長い踏切り 渡り切れぬ高齢者」2013/9/7,
http://www.asahi.com/area/kanagawa/articles/MTW20130909150150002.html
[5] 安井一彦、今中祐介:横断歩道における歩行者の歩行速度と挙動に関する研究、日本大学理工学部交通土木工学科卒業論文概要集、H15,
http://www.trpt.cst.nihon-u.ac.jp/ROADTRA/research/pdf/2003/hokosokudo.pdf
[6] 花岡嘉一、為岡隆俊:高齢者の歩行環境、土木学会、2005,
http://www.jsce.or.jp/library/open/proc/maglist2/00039/200511_no32/pdf/28.pdf

# by humlet_kn | 2013-10-06 21:20 | 創りだす | Comments(0)