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[No.93] くらしの中で数学を(3) ― 経済活動への比率・割合の活用(1)

 今回は、家庭におけるお金の出入り、蓄えに関して活用される比率・割合についてのお話しです。
(1)数量による尺度には4段階が
 S.スティーブンスは、私達が、日常的に用いている、数量であらわされる尺度水準には4段階があることを提唱した(1946年の論文「測定尺度の理論について」"On the Theory of Scales of Measurement" [1])。すなわち、名義尺度/順序尺度/間隔尺度/比率尺度である。それぞれを簡単に説明すると、[No.93] くらしの中で数学を(3) ― 経済活動への比率・割合の活用(1)_b0250968_14512970.png



 名義尺度:
 尺度付けがなされた対象を互いに識別するためのラベルとしての数字であって、同じ数字を付された対象は同じカテゴリーに属することがあっても、異なる数字が付された場合、それらの数字の大小、差や倍率などは全く意味を持ちません。 例えば、TVの公共放送に割り当てられたチャンネル番号、バスの系統番号、郵便番号図1; Wikipediaより)、自動車の登録ナンバーなど




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 順序尺度: 対象に割り振られる数字は測定する性質についての順序を表しています。数字の大小によって、着目する性質の強弱や多少について、等しいかどうか、順序による比較ができます。
 例えば、年間に発生した台風の番号付け、衣服のサイズ図2;婦人服のサイズ表一部)、鉄道の路線内の始点から終点に向けて順に付された駅ナンバー、商品やサービスの評価段階を示す数値レベルなど

 間隔尺度: 対象に付された数字は順序としての意味を持つのみならず、さらに対象a,b間の数字の差と対象c,d間の数字の差が等しいということは対象a,b間と対象c,d間の間隔が等しいということを意味する。[No.93] くらしの中で数学を(3) ― 経済活動への比率・割合の活用(1)_b0250968_14584780.jpg


 つまり測定値のペアの間の差を比較して、差が等しいか、差の間の比率はいくつか、をとらえることにも意味があるのです。すなわち、尺度値の加減の演算が意味を持つことになります。また、尺度上のゼロ点は便宜的な意味をもつこともありますが、基本的には尺度間では任意に定めることができて、負の尺度値も意味をもつことになります。例えば、℃で表された気温/水温/油温図3)、カレンダーの日付、年号など。


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 比率尺度: 対象に付された数字は間隔尺度の性質を持つだけでなく、さらにその中の対象ペアの尺度値間での乗除の演算にも意味があります。すなわち、比率尺度のゼロ点は絶対的な“無”を意味しているのです。ただ異なる比率尺度体系間で、その数値尺度の単位は任意性があるので、比率尺度間ではスケール変換が意味を持つことになります。
例えば、物品の個数・量、人口、年齢、面積、距離、収入・支出など社会的な諸変数、物理的な基本尺度である長さ/重さ/時間を表す数量(図4)、そして派生的に面積/体積/密度/速度を表す数量、そして今回主として取り上げる「金額」はその代表である。
 [1] S. S. Stevens (1946), “On the Theory of Scales of Measurement”, Science 103 (2684): 677-680, doi:10.1126/science.103.2684.677

(2)「金額」における「比率・割合」
 上述で見たように、金額」は比率尺度の代表であり、くらしの経済を実践する中では、その比率尺度としての意味と「比率・割合」を用いた「金額」の操作が重要になる。
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 「金額」は実際には「貨幣」によって運用されるので、それが“円”であれ“米ドル”であれ、“ユーロ”であれ、それぞれの貨幣体系の中で閉じて使われるなら、完全に比率尺度の要件を満たしている。そして、異なる貨幣体系間では為替レートを用いて変換が可能である。すなわち、任意の貨幣体系において、金額ゼロは絶対的なゼロであって、貨幣体系が異なってもその意味は普遍である。また同じ貨幣体系内では、その金額を表す数値間で比較した際、両者の数値の比率は、そのまま金額で表された価値の比率になっているのである。また、尺度値がゼロを基点に正負の値をとるときは、例えば家計図5 家計簿イメージ)の“収入”に着目すると、正の値は実質の収入を表すが、負の値は借金を意味することになるのである。
 同じ貨幣体系内での金額a,bを比較する時、収入aは収入bの r = a / b 倍に当たるという表現が意味を持ち、実際はrを%表現することも多い。
例えば、「エンゲル係数」(Allaboutマネーより)は、「食費にかかるお金が家計(消費支出)の何%を占めるかで表されます。

  エンゲル係数(%)=食料費÷消費支出×100

 エンゲル係数が高くなるほど、食費以外にお金がまわせない状態で、生活は苦しいとされています。総務省の家計調査によると終戦直後、昭和22年の全世帯のエンゲル係数は63%と高く、昭和28年は48.5%、昭和37年は39%、昭和54年は29.2%と、生活が豊になるにつれエンゲル係数は下がっています。2013年の全世帯のエンゲル係数の平均は22.1%でした(全国・二人以上の世帯のうち勤労者世帯)。」

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 また銀行の預金額が、ある時点でbであったものが1年後にaに増えた場合は、(a-b) と b の比率Rは、年利 R = (a – b) / bで増えたととらえられるのである。 外国為替レートも国際的な経済動向に関わる指標になるが、個人の海外旅行や外貨預金、投資などでも重要な意味合いをもっている。米ドル/円が110.74ユーロ/円が130.33といった交換率としての為替レートは日々目が離せないことになる(図6 最近の米ドル(赤)、ユーロ(青)、ポンド(緑)、豪ドル(オレンジ)の対円レートの変遷;2017/05/10を100として; http://sbk.jfx.jiji.com/market/chart/schart/)。

 以下、くらしにおける「金額」に関わる実用的な「比率・割合」の理解や活用・操作について数学的な観点から述べてみよう。

(3)単発で用いられる比率・割合
 ◆スーパーのディスカウント・サービス
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 店舗全体の売り出しの広告チラシ(図7)では、「〇%OFF」「ポイント〇倍」という表現が踊っている。
 地元のいくつかのスーパーマーケットの「ポイント」の運用方法を調べてみると、
(P1) もとまちユニオンの場合 216円につき1Pの発行→500Pで500円相当のポイント券
(P2) 東急ストアの場合 買上金額200円(税抜)で1ポイントが貯まる。手続き簡単、その場で発行。1ポイント1円換算でレジにて買い物に利用できる
(P3) たまやの場合 買物200円(税抜)につき1ポイント。年会費は無料。入会金は200円となります。500ポイントで500円の商品券が自動発行
いま、本来の1,000円分の商品の買い物をしたとすると、
(a)「10%OFF/20%OFF」では100円/200円の割引の結果、900円/800円で購入できることになる。商品単価という切り口で見ると、10%OFFで900 / 1000 = 0.9 を得、20%OFFで800 / 1000 = 0.8 を得る。
(b)「ポイント5倍/10倍」では、通常なら5ポイントのところ25/50ポイント(25円/50円の金券相当)が提供されことになる。すなわち、商品単価という切り口では、ポイント5倍では975 / 1000 = 0.975を得、ポイント10倍でも 950 / 1000 = 0.950を得る。
また、
(c)「10%/20%分の商品増量(おまけ)」では、たとえば「1000円でさんま5本のところ1本サービスして6本に」ということになるが、商品単価の切り口では、10%分増量で1000 / 1100 ≒ 0.909を得、20%分増量で1000 / 1200 ≒ 0.833を得る。
以上をまとめてみると、例えば
 「5%OFF」「ポイント10倍」「5%増量」
がほぼ同レベルのディスカウントサービスになるが、商品単価で見る限りでは
 「5%OFF」(0.950)=「ポイント10倍」(0.950) <「5%増量」(0.952)
であり、ポイントは後日の利用時の累積ポイントの制約下でのサービスであり、「5%OFF」が家計に最も優しいといえよう。一方、スーパーの経営側の立場では消費者が心理的には「ポイント10倍」を「10%OFF」より魅力的に感じているらしいことが経験知となっていて、ディスカウントサービスに「ポイント〇倍」を使うことが効果的とされているのでなかろうか。


◆消費税における“総額表示”と“税抜価格表示”

 国税庁(https://www.nta.go.jp/taxanswer/shohi/6902.htm)によれば、消費税8%の現在、消費者に対して、商品の販売、役務の提供などを行う場合、いわゆる小売段階の価格表示をするときには総額表示が義務付けられています。本体価格が10,000円の商品の小売りにおいては、まず支払総額である「10,800円」さえ表示されていればよいが、「消費税額」や「税抜価格」が表示されていても構わないのです。例えば、以下のような表示が「総額表示」に該当し、いわゆる内税価格表示になりますが、その中の消費税等、税抜きの本体価格が併記されても良いことになります。
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 10,800円10,800円(税込)
 10,800円(税抜価格10,000円)
 10,800円(うち消費税額等800円)
 10,800円(税抜価格10,000円、消費税額等800円)
また、「10,000円(税込10,800円)」とされた表示も、消費税額を含んだ価格が明瞭に表示されていれば、「総額表示」としてみとめられています(図8)。
 ここでは、消費者へのその金額表示における「総額表示」「税抜価格+消費税表示」について少し考えてみよう。
 ・「本来の当該商品価格+消費税8%分」の金額を支払って「当該商品」を受け取るという点では、客観的(数学的)には、「総額表示」と「税抜価格+消費税表示」とでは差がない
 ・「総額表示」のみでは本来価格と消費税を合算する手間が省けるものの、「消費税を徴収」されているということを意識しにくいのに対し、「税抜価格+消費税表示」では本来の商品価格と消費税を分離して捉え、その商品の商品価値や本来価格の変動に注目することができる。また、消費税の用途に対する貢献を意識することもできる。したがって、主観的な商品単価は、一見「総額表示」のみでは[商品価格+消費税]/[当該商品量]とみなされるのに対し、「税抜価格+消費税表示」では[商品価格]/[当該商品量]と評価される可能性がありそうである
 私自身の実感では、suicaによる運賃、郵便代金や食堂メニューの価格表示では「総額表示」のみ表示が増えてきているようであるが、かつて海外生活時に体験した数十パーセントの消費税ともなると、「税抜価格+消費税表示」にして、目的税としての消費税支払いを、本来の商品価格と分離して、日頃から意識するのが効果的なのではなかろうか。


<<<<<<<<<<<<<<< No.94へ続く >>>>>>>>>>>>>>



by humlet_kn | 2017-08-26 17:04 | 解かる | Comments(0)

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