[No.92] 居ごこちのよい鎌倉の・・・(4) ― 味処(その3)

 今回は、わが家の普段使いの食のお店を紹介してみたいと思います。鎌倉に戻って早くも5年を経て、退職後のライフスタイルも定着してきており、日々の食材の入手先や夫婦で気軽に楽しむときに使う食事処も見えてきました。そんな“味処”として、この鎌倉および周辺地域にあって老舗として息づいているお店に焦点を当てて、それぞれから私が感じる“こだわり”を読み解いてゆきましょう。

■ Bergfeld ■ http://bergfeld-kamakura.com/index.htm
b0250968_164376.jpg 1980年鎌倉の雪の下に開店したドイツ系のパン屋です。当時、私は30歳台前半で、10カ月の西ドイツ短期留学から戻った翌々年に当たり、住まいも鎌倉から筑波に移った時期になります。そんな訳で、このパン屋のことが気になり、西ドイツでのくらしの中で毎朝のように親しんだ“ブレッツェン” 写真1)が、鎌倉でも手に入るのかと訪ねた記憶があります(※)。しかし、当時、本場のドイツのそれとはかなり異なったものに感じたことと、ハードなライムギパンを中心にしていたような印象があり、身近に感じたことはありませんでした。その後、このお店に対して大きく印象を変えさせたのは、 “エンガディナー”というクルミやアーモンドなどのナッツをカラメルで包み込んだ焼き菓子でした。私の実家は鎌倉にありましたので、その近くの極楽寺(真言律宗;1259年創建)の境内の簡素な茶屋で、抹茶と一緒にいただくことができたのです。その味は今でも頭の中で蘇えらせることができるほどで、当時、それがBergfeldで作られたモノと分かったときのことです。その後、私は家族で筑波から長岡に30年ほど住まいしたため、実家に里帰りする際にはあまり意識することはありませんでした。
 そして2012年にあらためて鎌倉の稲村ガ崎に住まいを定めて、鎌倉市内はもちろん隣接の藤沢、葉山などのブーランジェリー(フランス系のパン屋)を中心に探してきましたが、普段使いのドイツ系のパン屋(Baekerei)としては、このお店に愛着を覚えるようになりました。b0250968_16452212.jpgb0250968_16454362.jpg現在は雪ノ下の本店と長谷店があり、共に店頭でのパンやケーキ類の販売のみならず、イートインが利用できます。お店の造りは、長谷の方が古民家風(写真2,3)で気に入っています。昨年の秋には本店、そして数日前には長谷店でイートインを利用し、「今日のサンドイッチ」のランチセット写真4)を頼みました。しっかりとした数種のドイツパンをかみしめながらドイツ風のソーセージや新鮮な鎌倉野菜を味わいました。¥1100(税別)でカップスープと飲物・デザートがついて、普段使いのランチとしては十分満足できるものです。どちらも平日のランチタイムで、ほとんど席が埋まっているものの、落ち着いて食を楽しむことができました。b0250968_16473743.jpg個人的な好みとしては、長谷店のイートインの雰囲気が好ましく、ドイツワイン向きのグラスのディスプレイも懐かしさを感じさせてくれました。店頭で購入するドイツ系のパンの味についてですが、昔の印象とは異なり、2010年にこの店も2代目に引き継がれ、フランス系とはひと味違うドイツパンの個性を主張しつつ、私達日本人のテイストに合わせるように進化しているのではないかと思っています。
(※)ドイツ暮しでの“ブレッツェン”は、最もポピュラーな朝食用のパンで、お店に依って味わいが異なるので、それを楽しむことができました。特に、印象に残っているのは、車で家族旅行をする中で、民宿を多用したのですが、その宿の手作りの“ブレッツェン”が焼きたてで朝の食卓に出されると、そのサクサクの外皮と香ばしい小麦のふわふわ感をバターやジャムを添えて味わえるのが、格別のもてなしであったのを思い出します。

■ Ble Dore ■ https://www.facebook.com/bledore.hayama/
 20年以上の歴史を持つという葉山のフランス系のパン屋です。私自身はその存在を知ったのはつい昨年のことで、それも“偶然”に近いものでした。

b0250968_1822659.jpg その記事に入る前に、前置きを少し。長岡から鎌倉に戻ってからも、新たなブーランジェリーがこの地にも続々と誕生していましたが、戻った当初に一番気になったのが、以前からの名店、比較的近くの鎌倉山の“ボンジュール”でした。閑静な住宅街のあの桜並木がよく似合うバス通りにありました。かわいいコテッジ風の建物(写真5)で、b0250968_1832347.jpg落ち着いた木づくりの内装の店舗(写真6)で、しっかりした上質の小麦粉の味わいが特徴だったのですが、残念ながら閉店してしまっていたのです(2012/2とのこと)。
 暫くして、そのボンジュールが再開(2012/7)したというので訪ねてみました(2012/12)。確かに店舗の外観・内観は以前の雰囲気を保っていましたが、バゲットや食パンには以前のテイストは感じられませんでした。その後、鎌倉山店は数年(2015/6)で閉店となり、今はその建物は他の“AROUND”(空中育成植物との共生ライフを提唱)という店として転用されています。b0250968_1845243.jpg一方、ボンジュ-ルの葉山店の方はモダンで素敵なたたずまいの建物で、レストラン兼ブーランジェリーとして継続して営業されており、一度、妻とランチに伺ったことがありました(2016/3)。雰囲気はなかなかなのですが(写真7)、その味は私達の好みとはズレていました。(実は、今回、このブログをまとめる中ではっきりしたのですが、老舗のボンジュールは“葉山ボンジュール”という名前で、2012年にすべての店舗が一旦閉店し、その後相鉄系の経営傘下に入って再開を果たし、葉山一色と鎌倉深沢のスーパーマーケットの相鉄ローゼンに併設して、ベーカリーとしてその名前を引き継いで営業されています。私も、最近は時折、そちらも利用することもありますが、残念ながら、ここで特記することはありません。そして再開/再閉店した鎌倉山店、今も営業を続ける葉山の新生ボンジュールは、経営的には老舗のボンジュールとは独立の“ブーランジェリー・ボンジュール”という名前のお店のようです)

b0250968_1855488.jpg そうこうする内に、私達は歯科治療のためしばしばマイカーで横須賀の歯科大学病院まで通院する機会がふえました。そんなある日、妻の提案で、葉山の一色の老舗洋菓子店“サンルイ島”の隣にベーカリーがあったはずなので一度立ち寄ってみようということになったのが、“Ble Dore”
 https://www.facebook.com/bledore.hayama/?fref=ts
との出会いだったのです(写真8)。何の予見も持たずに、店頭の駐車場に車を入れると、パン店舗の一角のカフェーでのランチに来られた方が待ち行列を作っている様子でした。私達は処せましと並べられた様々なフランス系のパンを一覧して、まずは基本のバゲットと食パンを購入しました。b0250968_1881742.jpg面白かったのは会計には自動支払機があって、パンのカットや包装などを行うスタッフが、お金に直接触れることのないよいようにされていたことです。そして、わが家のふだん使いのちょっと贅沢な朝食パン(写真9)の定番になったのです。
 その後のわが家にとっての朗報は、昨年の9月末に、 “葉山ステーション”という道の駅(Shopping Plaza)があらたに誕生し、その中に、Ble Doreの店舗が入ったということでした。
  http://www.hayama-station.jp/
 b0250968_1893799.jpg早速、9/26にわが家から車で30分ほどで、訪れてみました(写真10)。葉山町を中心にしたこだわりの食材、食品、料理が提供され、共通のイートインコーナーもあって、b0250968_18122138.jpg観光客にも地元民にも役立つちょっとオシャレなマーケットという感じです(写真11)。おかげで、この半年は、わが家のパン購入は、2回に1回はこのb0250968_18154149.jpgBle Doreの葉山ステーション店(写真12)に伺っていて、やはり山型/角型で断面サイズの大/小がある食パンとフランスパンのパリジャン/バゲット/バタールからの選択が欠かせません(写真13)。b0250968_18173259.jpgそして注目は、これまでに2度ほど購入したフランス産発酵バター入りの高級食パンの“エレシ食パン(山型/角型)”です。すなわち、Ble Doreの一番のこだわりは、食パンにあると思います(写真14)。
 実際に食してみての私の印象ですが、標準的な角食パン[1斤\340]とエレシ角食パン[1斤\491]をトーストしてみると、b0250968_18201225.jpgまず“エレシ”の何とも言えないバターの香りに惹かれます。そして、食感は“標準”で、しっかりした外皮と噛み応えのある内部であるのに対し、“エレシ”ではそれに加えて微妙なサクサク感が加わります。 味わいについては、“標準”で小麦の深い旨味、そして“エレシ”では発酵バターの香ばしさが口の中に広がり、プレーンなトーストでも堪能することができるのです。このエシレ角食パンは、2014年3月NIKKEI何でもランキングのぜいたく食パンベスト10で、数ある有名店を抑え、1位にランクされているのです。
 http://www.nikkei.com/article/DGXZZO67476680X20C14A2000000/

 b0250968_18221954.jpgb0250968_18225772.jpgさて、この店舗のこだわりについて、もう一つ私が気になっていることがあります。それは、写真(写真15)にもあるように、店舗内の一つの壁面には絵画が2枚掛かっているのです。手前がやや抽象画的な油彩画(写真16)であり、奥側がマリーローランサン(Marie Laurencin)のエッチングb0250968_18242674.jpg写真17)のようでした。店のスタッフに聞いてみると、これは開業時(1995年)からの社長(橋本宗茂氏)のこだわりとのことでした。ここの絵だけでも家が買えるほどだそうです。これからもこんなお店を大事にしてゆきたいと思います。

◆追記◆
 ここで、そこに至るまでの、私のフランス系のパンとの出会いについて、少し振り返ってみましょう。“フランスパン”というものを初めて意識したのは、50年も前の仙台での大学生時代のことでした。当時は下宿暮らしで毎朝、食パンを出してもらっていましたが、繁華街の東一番町に出ると“ひらつか”という洋菓子店でたまにバゲットを手に入れて楽しんだのが始まりだったように思います。大学卒業後は、東京の蒲田近くの下丸子に職場があり横浜や鎌倉から毎日通ったのですが、その途上の蒲田駅ビル(?)に“サンジェルマン”というお店があって、ここが私の普段使いの多様なフランスパンとの出会いの原点だったように思います。
b0250968_182802.jpg 1970年代末からの人工的な筑波研究学園都市での新住民としてのくらしが15年続く中では、モダンな公園・遊歩道や文化施設やショッピングモール“クレオ”が整えられてゆき、洞峰公園近くの“モルゲン”(1983年~)(写真18:2013秋に再訪)と“西武百貨店”の中の“ポルトガル”がちょっと贅沢な普段使いのパン屋になりました。モルゲンはその名前の通り、どちらかというとドイツ風で、ポルトガルの方がフランス風のパン屋でしたが、私の感覚ではそれほどその違いを意識することはありませんでした。やはりモルゲンがハード系、ポルトガルがソフト系で、前者の方が“質感”は高かったように思います。いまもモルゲンはお隣のケーキ屋“シーゲル”とともにつくば市の人気店となっているようです。
 そして長岡への1995年の転居。これはある意味では「フランス系パン文化」としては“秋の時代”だったように思います。転居当初は例の“サンジェルマン”が長岡駅ビル内にあったのですが、すぐに消えてしまい普通の街のパン屋さんが市民のくらしに浸透していました。そんな中で唯一“ラ・ボントーン”という小さなフランス系パン屋が住宅街の一角にあったのでそれを時折利用することではじまりました。長岡は「お米」の食文化の中心地であり、「しらゆき米」「日本酒」「煎餅(あられ)」「笹団子」が日常的にも土産としてもすぐれモノという位置づけでした。しかし、長岡在住の17年の間には、確実にパン需要も増えてゆき、“ラ・ボントーン”も場所を移して(http://www.bonton.jp/)、立派なフランス系パン屋として市民に定着してきたように思いました(写真19)。b0250968_18292186.jpgただし、ここのパンは焼きがしっかりしていて、フランス系パンに求められるハードな外皮の中にサクサクした内部の食感を求めるのは難しかったというのが実感でした。
 そんなときブーランジェリーとして気に入っていたのは、b0250968_18305149.jpg東京大丸デパート地階の “ポール・ボキューズ”写真20)でした。長岡から仕事で上京する度に必ず立ち寄り、パンドミー、バタール、プチ・ミッシュというプレーンなものを携えて家に戻りました。多くの手の込んだ菓子パンや食事パンがありますが、これらプレーンなパンは価格対満足比が抜群で、特にパンドミーは、フランスパン生地で作った食パンという感覚が新鮮でした。
 ただし、Ble Doreと比べると、価格帯がもちろん異なるのですが、歯応えはサクサクで、軽めのパン作りとなっていて、旨味ではやや劣るというところでしょうか?パリの街角のパン屋の雰囲気をちょっぴり味あわせてくれるこの店には、今も東京へ出かけたときには引き続き利用しています。
                             (2017/05/16記)
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by humlet_kn | 2017-05-16 09:37 | 出あう | Comments(0)